肉球ぷにっとライフ

ねこ的な気ままなブログです

ねこでも忘れない、あの日…

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はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

★私が子どもの頃のある日、私はお留守番をしていた。

 何もする事がなくて、ゴロゴロしていたら親から電話。

 その頃流行っていた、堂本剛さんが主演をつとめる「金田一少年の事件簿」のドラマ撮影が近くであるとの情報が入り、当時KinKi Kidsのファンだった私を現場まで連れて行ってくれるとのこと!
 まさか会えるなんて!!…

 夢見心地で、心臓もバクバクしつつも急いで色紙を探したけれど見当たらず…
 諦めきれず、とりあえず画用紙を小さく畳んでみた。油性マジックも忘れずにしっかり握って親の迎えを待つ。

 親は仕事の昼休み中しか時間が取れないとのことで、ものすごいハードスケジュール!

 撮影とのタイミングが合うだろうか…。

 憧れの人を間近で観られる、一生に一度のチャンスかもしれない…。

 緊張しながら待っていると、親が到着。
 親子はこれまでに無いくらいのトップスピードで撮影現場へ急行。

 着いた時にはすでに大勢の人だかりが出来ていたが、撮影後にキャストが通るであろう通路の出口付近に陣取ることができた。

 心臓が飛び出そう、というのを初めて体験したのがこの時だったのかもしれない。
 画用紙を持つ手に力が入り、緊張で震えがとまらない!

 わーっ!キャー!っと周りの人だかりから歓声が響いてきた。

 ついに、ついにその時がきた!

 どうやってサインをお願いしよう…?
 なんて言おう?

 1人の男性がスタッフに取り囲まれながら足早にこちらへと向かって来る。

 ツンツンした黒髪。前髪を上げておでこを出したヘアースタイル。




「はっ!!!? つ…鶴太郎…………っっっ!?」


 いや!?…金田一……「耕助」じゃん!?
 「じっちゃん」じゃん!?

 全身固まった。顔も固まった。画用紙を持った手も固まった。思考も停止した。口をポカンと開けて。

 私は…「無」になった。

 たまたま右手を出したポーズで固まったらしく、片岡鶴太郎さんはその手を握ってくれた。

 あまりに私がフリーズしていたせいか、鶴太郎さんは「サインはいいのかぃ?」という感じの目力で、じっと私の目を見つめながら握手をしてくれたけど…

 芸能人は忙しい。
 何も言わず固まったおかしな野次馬は放っておいて、さっさと移動用の車に乗り込んで行った。

 普段なら、芸能人に握手までしてもらって、状況的にはハッピーなはずだが…
 期待値が宇宙まで上昇していた私は地球のマントルまでめり込んだ。

 親は鶴太郎さんに握手をしてもらって上機嫌であった。

 午後の仕事が始まる前に戻らなければならないため、親は急いで私を家の前で降ろした。

 車のドアを「ばたんっ」と閉めた瞬間…

「あ!!家の鍵、持ってないし!」

 出掛けに親が鍵を閉めたため、私は鍵を持っていなかったのだ。
 気づいた時にはすでに車は発進していた。

「こら~!!鍵ないよ~!!」

 猛ダッシュで車を追いかけたが、親は1秒たりとも後ろを見ずに、ブィーンと速度を上げて去って行った。

「なんて日だっっ!!」

…小峠より、私の方が先かも。

 この日は日差しも強く、結構な暑さだった。
とりあえず家をグルッと回って、どこか入れそうな窓がないか探してみた。
 
 うん、戸締まりは完璧…。

 私の持ち物は折り畳んだ画用紙と油性マジック、あとは小銭入れ。

 今日は、親は夜まで仕事から戻らない予定。

 夜まで待ってたら野垂れ死ぬ…
 でも連絡も取れない…
 今みたいに、皆が携帯電話を持ってるわけではなかった。

 極限の状況で脳ミソがフル回転。

 「…!!」  思いついた。

 少し遠いが、なんとか歩いてでも行けそうな
所に祖父母の家があったので、とりあえずすぐに歩いて行くことにした。

 衝撃的な「金田一」違いに奔走された事を思い出しながら歩いていたせいか、あっという間に祖父母の家にたどり着いた。
 
…けど留守じゃん。

 わずかな希望を持って、祖父母の家の窓を見てみた。

 うん、戸締まりは完璧…。

 もう他に行くあてはない。
 いつ帰ってくるかもわからない。
 下手したら泊まりで旅行かもしれない。
 どこかを子供が1人でフラフラするのも怖い。

 中身も見ずに持ってきた小銭入れには数十円しか入っていなかったので、飲み物も買えなかった。

 ヘロヘロの状態ではあったが、何とかしないと命が危ない!
 一生懸命に考えた私。

 「…!!!」 また思いついた。

 祖父母の家から少し離れた所に叔母が住んでおり、叔母は昼間はいつも自宅にいる人だった。
その叔母が祖父母の家の鍵を持っていることを思い出した。

 運良く、すぐ近くに公衆電話があったので叔母に連絡した。
 叔母は予想通り自宅にいて、私の事情を話すと鍵を持ってすぐに来てくれることになった。

 叔母の家は少し離れた所…と言っても、一つ山を越えて来なければならない場所にあった。

 それでも叔母が駆けつけてくれた。
 叔母は鍵を開けて、私が大丈夫か確認した後、また山を越えて帰って行った。
 叔母には感謝してもしきれない!

 なのにその数分後、祖父母が帰って来た!

 叔母に申し訳なさを感じながら、祖父母にこれまでの事情を伝えると、祖母が

「なに、あそこの窓が開いてたのに。」

と、ジャイアント馬場さんかアッコさんが背伸びして手を伸ばしても届かないくらいの高さにある、ものすごーく小さい小窓を指さした。

 …私を忍者か何かと思っているのか。
 …しかも戸締まり完璧じゃないのかよ。

 いつも優しい祖母だけど、その時はさすがに疲れもあって私の身体からメラメラしたものが燃え上がった。

 何はともあれ、優しい叔母と祖父母のおかげで親にも連絡が付き、無事に夜まで親の帰りを待つことができた。


 他人からすれば、大したことのない話かもしれないが、

 「人は独りでは生きられない」

そう実感させられた出来事だった。

知り合いだけでなく、知らない大勢の人達がこの社会を造り上げている。

そして、周りにいる人達にいつも感謝の気持ちを忘れてはいけない。

 親にも感謝。
 叔母にも感謝、感謝、感謝。
 祖父母にも感謝。
 片岡鶴太郎さんにも感謝。

 親に「金田一」違いの情報を教えてくれた人にも………感謝……………。

 子供ながらに色々な教訓を得た1日でした。


☆最後までご覧頂き、ありがとうございました。